医師が患者を診察する際に使用される機材としてMRIスキャナーというものがあり、MRIスキャナーは磁気を用いて人体の臓器を撮影するのに用いられる。このMRIスキャナーを使用して撮影した画像をMRI画像といいMRI画像にはノイズや人体の構造上、不鮮明に撮影されてしまう場所がある。複数のMRI画像から不鮮明な箇所の形状や動きを手動で評価するのはとても手間がかかるため画像処理を用いて自動で輪郭検出を行う。
本研究の目的はMRI画像で不鮮明に撮影されてしまう場所である箇所である右心室短軸像の画像(図1の左)に対して図2の右の画像の様に緑の線で輪郭検出できるようにSnakesという手法を用いて時間的に連続するMRI画像群から右心室の短軸像の輪郭検出方法を研究する。
Snakes法というのは、輪郭を検出したい対象を輪郭で囲みこれを初期輪郭とする。そしてこの初期輪郭をあるエネルギー関数として表現する。このエネルギー関数は輪郭の形状、周長や輪郭の曲がり具合そして輪郭が画像上のエッジに沿っているかを表している関数でありこのエネルギー関数が低ければ輪郭が画像上のエッジにあることを示す。つまり輪郭の形状を評価したエネルギー関数の最小化問題を解くことで画像上の輪郭を検出する方法である。実際の画像を簡略化してSnakesの動作を示したものが図2となっており、緑色の閉曲線がSnakesの関数によって動かされる輪郭であり、水色の右心室部分が検出対象である。
Snakesは理論であり、実装する際には様々なアルゴリズムで実装することができる。比較対象として一番実装が簡単なSnakesを用いたときの問題点を挙げる。
この2つの問題点を解決するために2つの手法を提案した。
まず問題点1を解決する方法としてSnakesに用いられるエッジ画像を改良するために、通常の輪郭検出処理(Sobelフィルタ)ではなく,8方向Sobelフィルタを用いた。Snakesでは初期輪郭を与えられるため輪郭の中心がわかりその中心方向に対して垂直なエッジのみを検出するようにした。使用したフィルタは図3の8種類となっておりフィルタ位置が角度に対応している。
次に問題点2 解決する方法として画像更新時の輪郭を形成する手順を以下に示す。 数値計算を行うために輪郭は複数の頂点を結ぶ多角形として表現している。
この動作をすることで問題点1,2に対して対応できるようにした。以下の図4が参考画像である。
実験に用いる画像群は3つあり,以下に最初の画像と初期輪郭及びデータ数を示す。
画像枚数 | 輪郭頂点数 | |
画像群1 | 19 | 27 |
画像群2 | 16 | 32 |
画像群3 | 20 | 33 |
実験の方法はSnakesには3つの重みがあるためこれらの最適なパラメータを0.1刻みで全部の評価値を計算してその評価値が一番低いパラメータを代表のパラメータとする。
定量評価の方法はあらかじめ全画像に対して正解の輪郭データを与えて画像更新時に正解の輪郭とSnakesで得られたの輪郭の差分の平均を評価値として計算してする。
画像群3つに対して、通常のSobelフィルタでの実験と画像更新時輪郭形成なしでの実験と提案手法2種類を用いた実験の3つの比較を行った。以下に実験画像群1の一部抜粋を示す。
以下に定量評価のグラフを示す。赤の線が通常のSobelフィルタ、青の線が画像更新時輪郭形成なし、緑の線が提案手法2種類となっており、評価値は正解輪郭とのずれ具合であることから評価値が低いほうがより良い輪郭となっている。
定量評価の結果代表パラメータ及びそのときの評価値を以下に示す。
画像群1 | 画像群2 | 画像群3 | |
パラメータ(alpha,beta,gamma) | (0.2,0.2,0.6) | (0.3,0.1,0.6) | (0.2,0.1,0.7) |
評価値(通常Sobel) | 4.48 | 4.08 | 3.94 |
評価値(更新時輪郭変更なし) | 4.65 | 3.99 | 5.37 |
評価値(提案手法) | 3.33 | 3.92 | 3.77 |
まず定量評価の注目すると赤いグラフは画像番号後半で評価値が高くなる場合が多い。どの画像群においてもいえるが、画像番号中盤で右心室は縮小し画像番号後半の部分になると膨張して最初と同じくらいの大きさに戻るような動きをしている。つまり赤のグラフは右心室の膨張に対応できていなく、輪郭が右心室の内側にある状態になっている場合が多い。逆に緑のグラフに注目すると提案手法を用いて画像更新時に初期輪郭形成を行うことである程度まで膨張に対応できていることがわかる。
次に青のグラフに注目すると大体の場合で画像番号中盤で高い評価値を示している。これは右心室の縮小に対応できていないことになり、輪郭が右心室の壁側のエッジで停止してしまっていることが多いしかし提案手法では右心室の壁側のエッジを抽出しないことや初期輪郭形成で頂点を黒い場所に配置することでこの状態にならないようにしていることがわかる。これらの結果から2 つの提案手法は一定の効果を示したことがわかる。
しかし輪郭の形状が良くなっているからといって実用的であるかはまた別の問題であり実際に膨張に対応できていないことがわかる。さらに今回では提案手法がどの程度有効であるか調べるために予め正解の輪郭を与えて3 つの重みパラメータ を決定していたが、実際には正解の輪郭は入力しないためまだ実用的な段階ではない。
本研究の目的はMRI画像群からSnakes法を用いて右心室短軸像の輪郭検出をすることが目的であった。そこで提案手法を用いて以下のような結果が得られた。
しかし実際に右心室の輪郭検出に対応できるほどの精度を持たないことと、重みパラメータの算出方法が今後の課題となる。精度を挙げる方法としては探索方法を改めて考える必要があると思われる。 greedyアルゴリズムで8近傍での探索でおこなっているため輪郭の探索が少し粗い可能性がある。また、重みパラメータの算出方法だが、重みパラメータは輪郭の形状を表現しているため、一定の定数ではなく輪郭が変更されるたびにパラメータもフィードバックを受けて調整できるようなプログラムを作成すれば実用的な右心室輪郭検出ができると思われる。
[1]M.kass,A.Witkin and D.terzopoulos "Snakes:Active\ Contour\ Models" International\ Journal\ of\ Computer\ Vision,p321-p331,(1988)
[2]栄藤 稔 "動的輪郭モデルSnakesの概観" Medical imageing technology Vol.12 No.1 January 1994
[3]服部 佳功 "顎関節MR画像における骨表面の抽出" J Jpn Prosthodot Soc,p929-p939,(1999)