人間は網膜内の3種類の錐体細胞によって色を感知しているが,その錐体細胞のうちのいずれか, もしくは複数が正常に機能しなくなると, 通常とは色が異なって見えてしまう.これを色覚異常と言う.そのような色覚異常者にとっては, 正常な色覚ならば識別のできる2つの色が混同してしまうことがある. そのような色覚の差が,日常生活の中にも支障をきたす場面があり,色覚異常者を困惑させている. このような不便を解消するために,色覚異常者の色覚を画像処理によって補助する研究が今日までに 行われてきた. それらの研究を2つほど紹介する.
この手法は,色覚異常者が識別困難な色を,識別可能な別の色に置き換えてしまうものである. これならば,色覚異常者でも直感的に色の判別を行うことができる. しかし,色自体を変換してしまうので,元画像の持つ自然な色合いを壊してしまったり, 変換後の色が他の色と被ってしまわないように,色の種類の少ない画像にしか適用が向いていない,などの点がある.
この手法は,色覚異常者が識別困難な色に対して,縞模様やドットなどの模様を貼り付けることにより,識別可能にするという手法である. これならば色を変化させないので,元画像の色合いを保つことができるが,適用可能な画像が図やグラフなどの比較的シンプルが画像に限られ,写真やグラデーション画像などの画素単位で色の変化のある画像には適用が難しいと考えられる.