近年、人間による制御によらず屋内外を自律的に走行するロボットの研究が行われ、実用化も進んでいる.そういった移動ロボットの自律走行において、ロボット自身が周囲の環境から現在の位置を推定することは重要な課題である.
現在はレーザーレンジファインダー(LRF)により周囲の空間の3次元情報を測定し照合する方法や、GPSを用いて人工衛星からの信号を元にロボットの現在位置を把握する手法が主流である. しかし、LRFは高価なため多くのロボットへの搭載が難しく、また開けた場所では測定がうまくいかないなどの問題がある. また、GPSはビルなどの高い遮蔽物が周囲に存在する場所では使用できないなどの問題がある.
こうした問題に対し、比較的安価に搭載できるカメラを用いた画像による自己位置推定手法が研究されている. これは人間が周囲の風景から自分が現在いる位置を把握するように、ロボットが移動しながら撮影した画像を用いて人間と同じように自身の位置を把握する手法であり、画像を用いることで周囲の環境に影響されず安定した自己位置推定を行うことができる.
移動ロボットの画像マッチングに適した自己位置推定法として、SeqSLAM[1]というものがある.
これは予めロボットが移動するルートを撮影した連続画像群とロボットが自律走行しながら撮影した画像とのマッチングを行い、その結果のスコアをまとめたスコアマトリックスから対応画像を探索し自己位置推定を行う手法である. しかし、この手法は局所的な照明条件の変化の影響を受け、安定したマッチングが行えない問題が存在する.そこで、本研究ではこのSeqSLAMの問題の改善を目的とした、様々な照明変化に対し堅牢な画像マッチング手法について提案する.
SeqSLAMはM.Milfordらによって提案された手法であり、予めロボットの移動ルートを撮影した画像群を用意し、走行中にカメラから取得した画像とその画像群とを照合し画像どうしの対応付けに連続画像を用いて自己位置推定を行う手法である. 連続した画像群を用いることで特徴点を検出する必要がなく、天候や季節変化に対し堅牢なマッチングを行うことができる.
次に、SeqSLAMの手順を説明する.予め用意した移動ルートの画像群をテンプレート画像群、走行中に取得した画像群を入力画像群として照合する両画像をグレースケール化し、サイズを縮小してサムネイルを作成する。このサムネイルを以下の図1 のようにパッチで区切り、各小領域内で画像の明るさを正規化することで天候や照明の変化に対する頑強性を向上させる.
既存手法では小領域内の画素の最高輝度を255、最低輝度を0 となるように正規化を行う.正規化を施したテンプレート画像と入力画像間の輝度値の絶対値の差分を求め差分画像を作成する.この差分画像の輝度値の平均を取り、その値を画像組のスコアとする. これを1つの入力画像に対し全テンプレート画像群に行い、スコアマトリックスMを作成する. Mは現在時刻TからT-dsまでのスコアから成る1次元の行列である. さらに、Mに1次元の正規化を行うことで局所領域の明度を強調し、よりマッチングの成否を強調する. Diを強調前のスコア、σlを局所標準偏差、Diを局所平均として、強調後のスコア^Diを以下の式(1)で求め局所領域強調を行う.
次の図2に各入力画像のスコアマトリックスMと、Mに局所領域強調を施した例を示す.
続いて、Mを用いて対応する連続画像を探索する. この探索はテンプレート画像の各要素から出発して、異なる速度を表す軌道を投影する.このとき、現在の軌道との一致を避けるため最近のテンプレート画像を除いて探索を行う.時刻T-dsから現在時刻T に移動する際に通過する差分値に基づき、各軌道線について差分スコアSを算出する.スコアSが最小となる画像列を最も類似した画像列とみなし、以下の式(2)で定義する.Dtkは行列M 内の時刻tにおけるインデックスkのスコアの数値を示す.ここで、kは時間tで軌道が通過する特定の差分値であり、以下の式(3)で定義される.sは軌道が生じたテンプレート画像の番号であり、軌道速度Vはロボットの移動速度を元に決定されVmaxからVminの数値をVstepごとに取り探索範囲を決定する.
このような手順で探索することで、SeqSLAMは堅牢な対応画像探索を行うことができる. 連続画像の1枚に遮蔽やルートの変化などが生じた場合でも、ds間の画像列を用いて探索を行うためそういった影響に対しても堅牢である.また、画像を縮小しサムネイル化するため、低画質なカメラでも安定した探索が可能である
ロボットが違う照明条件で同じ場所を走行しながら1mごとに撮影した、画像番号と撮影位置が対応するそれぞれ92枚の2つの画像群を用いてSeqSLAMの動作実験を行う. 次の図4に使用した画像群のそれぞれの抜粋を示す.
今回の実験では画像番号と撮影位置が対応した画像を使用するため、スコアマトリックスに対角に黒い線ができれば正しく対応画像をマッチングできた事になる.これら2つの画像群に対しSeqSLAMによりスコアマトリックスを作成し、対応画像探索を行う.
動作実験の結果のスコアマトリックスと対応画像探索結果を次の図5に示す.
このスコアマトリックスを見ると、大よそ対角に黒い線ができているためマッチングは成功したといえる. また、対応画像探索も対角上に線が引かれており、この結果からも正しいマッチングができたと考えられる.しかし、スコアマトリックスの中央部分を見ると、他所と比べ黒い線がはっきりと出ておらず対応した画像のマッチングが上手く行えなかったと考えられる. この部分の画像の例と正規化処理後の画像を以下の図6 に示す.
2つの画像を比較すると、テンプレート画像は日光が差していることにより明るい部分と影になっている部分がある.一方で入力画像は雲が出て日光が隠れているため、テンプレート画像に比べ全体が同じような明るさになっている. この照明条件の違いにより画像の正規化結果に差が生じ、マッチングが正しく行えなかったと考えられる. この結果から、既存手法では画像間で大きな照明変化があった場合その影響を受けて安定したマッチングができないという問題がある.
SeqSLAM は画像を小領域に分割し個々の領域内で正規化することで天候や照明の変化に対する頑強性を向上させている. しかし既存手法は最終的なマッチングを輝度値の差分により行うため、局所的な照明変化に対して影響を受けやすい欠点がある. また、小領域の正規化方法も動作実験の結果より、画像の照明変化に対し影響を受けて安定したマッチングができていないと考えられる.そこで、本研究では小領域の正規化方法や画像のマッチングをより照明変化に対し堅牢な手法を用いることでこの問題を解消し、SeqSLAM の性能を向上させ安定したマッチングができるようにすることを目的とする.
ヒストグラム平坦化は画像の画素の輝度値の分布を表すヒストグラムの幅を調整し平坦にすることで、画像のコントラストを強調する手法である. コントラストを強調することで画像の明るさの違いを補正でき、輝度値の差分によるマッチングの精度を上げることができる.以下の図7 に示す画像例に対し、ヒストグラム平坦化を適用した結果を示す. [1] 適用前[2] 適用後 図7: ヒストグラム平坦化の効果
図7 のようにヒストグラムを平坦化することで画像のコントラストが強調され、鮮明な画像に変換される.特にヒストグラムが特定の範囲に集中しているような、明るさが極端に偏った画像の場合は効果を発揮する. こうして調整した画像を用いて既存手法と同じく画像の輝度値の差分をとることで画像のマッチングを行う.
正規化相互相関は画像の輝度値の平均値を引いて正規化し、その相関から類似度を計算をする手法である. 画像を輝度値の分布と考え、統計量としての相互相関係数を計算し、類似度とする.画像をベクトルとみなして内積を計算することでそのベクトルの長さ(ゲイン変動)の影響を吸収できる. また、画像の明るさの平均値を引くことで2つの画像の明るさの変動を吸収できるため、照明変化の影響を吸収し安定したマッチングができる.類似度R_znccの範囲は(1 ≦ R_zncc ≦ 1)であり、1に近いほど類似している.
画像の幅をM、高さをNとしたとき、テンプレート画像の画素をT(i,j)、平均をT、入力画像の画素をI(i,j)、平均をIとして、類似度Rzncc は次の式(4)で定義する.
#ref(): File not found: "Coordinate.jpg" at page "画像によるロボットのナビゲーションのための照明変化に堅牢な画像マッチング手法"
ここで、正規化相互相関の結果が-1に近い場合について考える.この場合は元の画像がネガポジ反転された画像に類似しているということであり、一概にまったく別の画像であるとは言えない. 以下の図8に正規化相互相関での類似度が-1になる例を示す.この右の画像は左の画像をネガポジ反転した画像である.
例えば、昼間の画像と夜間の画像をマッチングする際に窓からの明かりや街灯の光などによりテンプレート画像と入力画像間で明暗の分布が変化している場合、従来の正規化相互相関では正しいマッチングができない箇所ができる可能性がある. そこで、正規化相互相関の絶対値を用いてマッチングを行うことでこうした明暗の分布が逆転した場合でも類似度が1に近くなり正しくマッチングができると考え、絶対値正規化相互相関(絶対値ZNCC)を実装した.
増分符号相関[2] は画像間の明るさの変化傾向を符号化し、どの程度一致するかを調べることで画像のマッチングを行う手法である. 図9に日照変化により明暗が異なる同じ位置から撮影した画像例と画像中の赤枠内の輝度値をグラフ化して示す.
図9 のグラフから分かるように、明るさの絶対値や変化量は2つの画像で大きく異なっているが明るさの変化傾向は両画像で似た形になっている.このような特性を生かし、増分符号相関は単純なコントラストの大きさによる特徴だけでなく、全ての画素の情報を利用しマッチングを行う.
続いて、増分符号相関の手順について説明する.テンプレート画像の画素列G={gn}(n=0,1,……,M+N)に対応する長さのビット列B={bn}(n=1,2,……,M+N)を考え、注目画素とその次の画素との明るさを比較し、次の式(5)で符号をつける.
同様に入力画像の画素列G'={fg'}(n=0,1,……,M+N)に対応するビット列B'={b'}(n=1,2,……,M+N)を定義し、符号をつける.類似度R_iscは双方のビット列の"1"どうし及び"0"の一致割合として次の式(6)で定義する. また、類似度の範囲は(0 ≦ R_isc ≦ 1) であり、1に近いほど類似した画像であると判断する.
本研究では、手法の適用前にガウシアンフィルタを適用して画像のノイズを取り除いている.また、増分符号相関は1 画素どうしの比較により増分符号をつけるため、ロボットの撮影位置の違いによる画像のズレに大きく影響を受けてしまう.そこで、注目画素と比較画素を1 画素から4 画素の平均輝度に拡張して増分符号をつけることで撮影位置のズレを吸収できると考え、この改良を加えた拡張増分符号相関も実装した.
方向符号照合[3] は画像の各画素の輝度勾配の方向に対し符号を付け、それに基づき照合を行う手法である. 輝度勾配とは画素近傍における明度変化が最大となる勾配方向であり、輝度勾配の角度を一定角度ごとに符号化する.輝度勾配は明度変化に影響されにくい特徴があるため、照明変化に対し安定したマッチングができる.
続いて、方向符号照合の手順について説明する.テンプレート画像の注目画素T(i,j)の水平方向の微分∇Tx、垂直方向の微分∇Ty を1次微分フィルタを用いて求める. このフィルタを図10に示す. それを基に、輝度勾配の角度θ(i,j)を次の式(7) で求める.
式(7)で求めた輝度方向θ(i,j)を量子幅Δθ = 2π/Pにより量子化し、(0 ≦ CT(i,j) ≦P - 1)の範囲で方向符号CT(i,j)を定義する. また、しきい値ϵでコントラストが低い画素を除外し符号化を安定させる. 本研究ではしきい値ϵ = 5、方向分割ピッチP = 16(Δθ = π/8)としており、以下の図11にその方向符号を示し、次の式(8)で方向符号を計算する.
同様に、入力画像の注目画素I(i,j)の水平方向の微分∇Ixと垂直方向の微分∇Iyから輝度勾配を求め、方向符号CI(i,j)を求める. 本研究ではより類似した部分に注目したいので、方向符号CT(i,j) とCI(i,j)の絶対差による重みづけにより類似度R_ocmを計算する.なお方向符号が16(低コントラスト)の場合は重みづけには使用しない.方向符号CT(i,j)とCI(i,j)の絶対差を求め、差が0 の場合は類似度R_ocm を+1、1、もしくは15のときはR_ocm を+0.5、2、もしくは14のときはR_ocmを+0.25で重み付けする. これを全画素に対し行い、最終的に類似度の範囲を(0 ≦ R_ocm ≦ 1)とするため画素数M+Nで除算した値と定義し1に近いほど類似した画像であると判断する. こちらの手法でも、増分符号相関と同じく手法の適用前にガウシアンフィルタを適用して画像のノイズを取り除いている.また、方向符号照合も増分符号相関 と同じく1画素に対する符号によるマッチングを行うためロボットの撮影位置の違いによる画像のズレに大きく影響を受けてしまうと考え、注目画素と比較画素を1画素から4画素の平均輝度に拡張して改良を加えた拡張方向符号照合も実装した.
動作実験と同じく図4に示した、画像番号と撮影位置が対応したそれぞれ92枚の2つの画像群を用いて8つの各マッチング手法を実装したSeqSLAMによる実験について述べる. 更にスコアマトリックスの局所領域強調により明度強調を行う前後で定量値を求め、その数値からも比較を行う.
定量値として、1つのテンプレート画像に対して画像番号の同じ(撮影位置の同じ)入力画像のスコアと、それ以外の撮影位置の違う入力画像の中で最も類似度が高いスコアの比を相違度と定義し、それらの平均値を求めた.この数値が小さいほど撮影位置の対応した画像の類似度が高く、そうでない画像の類似度が低くなり両者の区別ができたとなる.また、相違度が1以上(撮影位置の違う画像の類似度が最高)となってしまった画像の枚数もまとめた.またスコアマトリックスの局所領域強調による明度強調を行う前後で数値を求め、どのような変化があるかも比較する.
実験結果のスコアマトリックスを図12に、定量比較の結果を表1にまとめる.
明度強調前 | 明度強調後 | |||
相違度平均 | 相違度が1以上 | 相違度平均 | 相違度が1以上 | |
既存手法 | 0.94 | 9 | 0.64 | 4 |
ヒストグラム平坦化 | 0.93 | 6 | 0.50 | 4 |
ZNCC | 0.58 | 7 | 0.52 | 5 |
絶対値ZNCC | 0.59 | 7 | 0.49 | 5 |
ISC | 0.59 | 39 | 0.49 | 5 |
拡張ISC | 0.92 | 12 | 1.70 | 8 |
OCM | 0.71 | 5 | 0.45 | 2 |
拡張OCM | 0.69 | 6 | 0.48 | 3 |
各手法のスコアマトリックスを比較すると、既存手法ではうまくマッチングができなかった中央部分が正規化相互相関、方向符号照合では比較的黒くなりマッチングの精度が向上した.また、画像番号の対応していない画像の部分が全体的に明るくなっており、撮影位置が対応した画像とそうでない画像の区別ができた.逆に、増分符号相関は既存手法と比べ画像番号の対応した画像のマッチングができた部分が少なくなり、黒線が途切れ途切れになってしまった. 次に定量比較の結果を見ると、明暗の強調前では正規化相互相関が数値が最も低くなった.また、ヒストグラム平坦化と方向符号照合は数値は大きいが、相違度が1以上の個所は正規化相互相関より少ない結果だった.明暗強調後では方向符号照合が全ての手法の中で定量値、相違度が1以上の個所数ともに最小となった.一方で増分符号相関は定量値、相違度が1以上の個所数ともに既存手法より大きくなった.この原因としては、同じ撮影位置でも左右の微妙なズレが増分符号に影響してしまったためと考えられる.領域拡張を施すことである程度向上はしたが、既存手法よりも劣る結果となった.
これらの結果より、この実験においては既存手法と比べヒストグラム平坦化、正規化相互相関、方向符号照合及びその改良手法はSeqSLAMの性能が向上し、増分符号相関及びその改良手法は既存手法より結果が悪くなった.
こちらの実験は、自律走行ロボットが人のいる屋外環境を走行しながら一定距離ごとに撮影した画像群に対して実験Iと同じ実験と、更に対応画像探索を行った.実験Iと違い両画像間の画像番号と撮影位置が対応しておらず、また、人がいることでロボットの移動ルートが変化した画像も含まれる.画像群は最初の画像と最後の画像の撮影位置が画像間でそれぞれ対応するように範囲を選択した.実験は4つの区間の画像群に対し行い、その内の2つの区間の画像群に対し行った実験結果について述べる.以下の図13、図14に実験に用いた画像群の抜粋を示す.
実験Iと同じく8つの手法を実装したSeqSLAMでそれぞれスコアマトリックスを作成した.また、dsを全テンプレート画像枚数とした画像群全体に対してSeqSLAMの手法と、さらに詳細な結果を見るため動的計画法による最少スコア探索(DP探索)でそれぞれ対応画像探索を行う.
既存手法と比較すると、実験Iと同じく正規化相互相関と方向符号照合がマッチした部分がはっきりと表れており撮影位置の対応した画像としていない画像の区別ができたと考えられる.
次に、対応画像探索を行った結果は画像群1についてはSeqSLAMの手法(図16)、DP探索(図17) 共にどの手法でも大きな違い無く探索を行うことができた.対して、画像群2ではSeqSLAM の手法による対応画像探索(図19)ではヒストグラム平坦化と正規化相互相関のみ対角に線分が引かれた.一方でDP探索の結果(図20)では拡張増分符号相関以外の手法では概ね対角に対応画像探索の結果が表れた.この結果については、次章の考察にてさらに詳しい実験を行いその性能の違いを比較した結果を述べる.
3箇所の定点から2日分、9:00~17:50までの10分毎に撮影した画像群に対し、複数の照明条件の違う画像を用いて、8つの各正規化手法を用いたSeqSLAM で実験を行う. この実験では画像の各小領域ごとにマッチングを行い、両画像で位置の対応した小領域の類似度がその他の小領域の中で最も高くなった小領域の数を調べ、各時間画像ごとの結果をグラフにまとめて各手法の比較を行った. その結果の中から数例を結果として述べる.各実験で使用した画像群の抜粋と入力画像を以下の図22に示す.
図23に示す各グラフを見ると、ヒストグラム平坦化、方向符号照合が全ての結果において小領域のマッチ数が多い結果となった. 正規化相互相関も既存手法よりほとんどの場合でマッチ数が多くなった.絶対値正規化相互相関は通常の正規化相互相関と比べマッチ数が少ない場合が多く、有効に働く小領域が少なかったと考えられる. 一方拡張増分符号相関と拡張方向符号照合は全ての結果において既存手法よりマッチ数が少なかった. この原因は両手法とも4画素の平均を取り広い範囲に対しマッチングを行うため、範囲内の照明の変化の影響を受けてしまったためと考えられる.
実験Iでは明度強調前では正規化相互相関が最も数値が小さくなったが、明度強調後では方向符号照合やヒストグラム平坦化が数値が小さくなった.この結果について、正規化相互相関は類似度の範囲が(-1 ~ 1)であるため、明度強調前でも数値の差が大きく出やすいためと考えらえる.また、方向符号照合は類似度を(0 ~ 1)の範囲にするために処理画像の画素数で除算を行うが、SeqSLAMでは画像を縮小しさらに区分した小領域に対して処理を施すため類似度の取るパターンが少なくなってしまう.そのため、類似度の差自体が小さくなってしまったと考えられる.しかし、明度強調処理を施すことでヒストグラム平坦化や方向符号照合の類似度の差を大きくし、この欠点を改善することができた.
また、増分符号相関で上手くマッチングできなかった画像の例を以下の図24に示す
このように、少しの撮影位置の違いでも増分符号相関では影響を受けてしまうため、移動ロボットの走行においては有効な手法ではないと考えられる.また、拡張増分符号相関はある程度のズレには対応し増分符号相関に比べ性能が向上したが、図24に示した画像では類似度が小さくなり影響を受けてしまいその効果はあまり高くないと考えられる.
実験IIの結果について、画像群2のDP探索による実験結果は各手法で大きな違いが出た.これらの結果について、既存手法と実験Iで効果の高かった正規化相互相関と方向符号照合の結果について更なる比較実験を行った.図25に赤枠で示した、3つの手法のDP探索で大きく違いが出た部分について更なる比較を行う.
使用した画像群の撮影位置が同じ画像を目視で確認し、撮影位置の対応が取れた画像組の部分を図26に青い点で示す.この青い点とそれぞれのDP探索の結果とのズレを調べ、それらを合計した数値を表2に示す.
対応した画像とDP探索の差 | |
既存手法 | 362 |
ZNCC | 215 |
OCM | 157 |
表2の結果より方向符号照合のズレの合計値が最も小さく、目視で確認した結果に最も近い結果であった.よって、こちらの実験においても方向符号照合が最も安定したマッチングができたと考える.しかし、屋外環境の画像では画像内の変化が大きくどの手法でもマッチできない画像が多かったため、方向符号照合によるマッチングにもまだ問題があり更なる手法の改良について検討が必要である.
実験IIIの結果において、グラフを比較するとヒストグラム平坦化と方向符号照合がどの画像に対してもマッチング数が多く優良な結果であった.これについて、グラフ内で各手法の違いが大きかった画像組に対して画像内のどの小領域に各手法のマッチングの差が表れたのかを調べ、画像の小領域と対応した表に結果をまとめた.位置の対応した小領域の類似度より類似度の大きいそれ以外の小領域の数を調べ、その数が小さいほど対応した小領域の類似度の順位が高くマッチングができたとなり、0の場合は対応した小領域が最も類似度が高いという結果となる.実験IIIの結果の中で様々な画像組に対し実験を行い、その中の一例として図27に示す画像組の結果について述べる.
図28に示す各手法の結果を比較すると、既存手法は小領域の中で明るさの変化の変化があった箇所の類似度が下がり順位が下がったと考えられる.方向符号照合は空の箇所や車の位置が変わった箇所以外全ての小領域で順位が0となり照明変化にほぼ影響を受けなかった.一方で、ヒストグラム平坦化は順位が上がり効果が出た個所もあるが、逆に既存手法より順位が下がった個所も存在した.また、増分符号相関も定点観測画像においては正規化相互相関より全体的に結果が良くなった.
一方で拡張増分符号相関、拡張方向符号照合は既存手法よりも明るさの変化の影響を強く受け安定したマッチングができなかったことが確認できる.この結果について類似度の数値を見てみると、4画素の平均を用いることで照明変化に対し大きく影響を受けてしまったことも原因であるが、それ以外にこれらの手法は4画素の平均を用いることで処理を施す画素数が少なくなり、類似度のとる数値のパターンが少なくなったため同じ類似度の値となる箇所が多くなり対応した小領域の類似度と他の小領域の類似度が等しくなってしまったことも原因として考えらえる.
これらの結果より、定点観測画像に対しての実験では方向符号照合が最もよい結果となり照明変化に対し堅牢であった.
本論文では、屋外を自律走行するロボットに適した画像による自己位置推定法であるSeqSLAMについて撮影位置の対応した画像群による動作実験の結果から局所的な照明変化に対する問題点を述べ、照明変化に堅牢なマッチング手法を用いることで局所的な照明変化に対するマッチングを安定させ性能を向上させる手法を提案し、そのための手法として7つのマッチング手法についてその性能の比較を行った.SeqSLAMは事前に用意した移動ルートを撮影した画像群と走行中に取得した画像群とをマッチングし、各画像の結果をまとめたスコアマトリックスを作成し対応画像を探索することで自己位置推定を行う手法であり、この手法で用いられているマッチング手法では画像の照明変化に影響を受けマッチングが安定しない場合が存在する.そこで、画像のマッチングに照明変化に堅牢なマッチング手法を用いることで正しい対応画像を見つけやすくしその性能を向上させることができると考えた.
提案手法はヒストグラム平坦化、正規化相互相関、増分符号相関、方向符号照合に加え、絶対値を用いて照明の反転にも対応した絶対値正規化相互相関、注目画素を拡張し撮影位置のズレに対応した拡張増分符号相関と拡張方向符号照合の7つであり、それらと既存手法とで評価実験を行い最もSeqSLAMの改良に適した手法がどれかを比較した. 評価実験は動作実験と同じくロボットが走行しながら一定距離ごとに撮影した画像群と、定点からの時間変化を撮影した画像群に対して行い、それぞれの手法の効果を確認した.
画像番号と撮影位置を対応させたロボットの移動ルート画像群に対する実験では、既存手法と比べ正規化相互相関と方向符号照合が撮影位置の対応した画像の類似度が上がりマッチングの精度が向上した.また、マッチングすべき画像とそうでない画像との類似度の差が大きくなり、安定したマッチングを行うことができた.続いて、人の往来がある屋外環境を走行した画像群に対しての実験では、どの手法でも人が写ったり移動ルートのズレによりマッチングできた画像が少なくなった.DP探索による対応画像探索の結果では、方向符号照合が目視で確認した対応画像と対応画像探索とのズレが最も小さくなった.
定点観測画像に対する実験では、定点から撮影した時間ごとの画像と照明条件の違う数枚の入力画像との各小領域のマッチ数についてグラフで比較した.その結果、ヒストグラム平坦化と方向符号照合が様々な照明変化に対して小領域のマッチ数が多く、安定したマッチングを行うことができた.これらの結果より、移動ルート画像、定点観測画像のどちらに対してもマッチングができた方向符号照合がSeqSLAMの性能向上に最適な手法であると提案する.
今後の課題としては、様々な画像群に対して実験を行い、様々な環境に対して各手法でどのような影響が出るのかを調べる必要がある. また、人が往来する屋外環境をロボットが走行した画像群による実験ではマッチングが上手く行えなかった箇所が存在し、そういった場合に対してより安定したマッチングを行うことができる手法についても考えていく必要がある.自律走行ロボットへの実装を目指すに当たり、各手法の速度についても調べロボットへの実用化を目指した高速化などの改良や実験を重ねていく必要がある.
[1] M.J. Milford and G.F. Wyeth"SeqSLAM: Visual RouteBased Navigation for Sunny Summer Days and Stormy Winter Nights," Proc. of the IEEE Interna-tional Conference on Robotics and Automation, Minnesota, USA, 1643/1649(2012)
[2] 村瀬一朗, 金子俊一, 五十嵐悟"増分符号相関による画像照合"精密工学会誌 Vol.66, No.2, 2000
[3] F.Ullah,S.Kaneko,S.Igarashi"Orientation code matching for robust object search" IEICE Transactions on Information and Systems E84-D(8):999