[[太田研 公開用Wiki]] *実験動物の運動機能計測手法 [#o2eab8b3] #contents *序論 [#uc8a9e8f] 現在、日本国内には運動機能に障害が発生する脊髄小脳変性症という病気の患 者が2万人以上いる。この疾病は原因となる遺伝子が不明なものも多く、根治療法 はまだ見つかっていない。そうした現状は薬剤の開発に時間がかかることが要因 の一つだと考えられるため、薬剤の効果を効率的に調べることが求められている。 したがって、本研究では脊髄小脳変性症を患ったマーモセットという小型の猿 と正常なマーモセットの運動(手の動き)に対して、画像処理を用いた運動測定 を行い、そこから疾病の有無を判別することを目的とした。この研究により治療 効果の判定が定量的に行えるようになる。 現在、日本国内には運動機能に障害が発生する脊髄小脳変性症という病気の患者が2万人以上いる。この疾病は原因となる遺伝子が不明なものも多く、根治療法はまだ見つかっていない。そうした現状は薬剤の開発に時間がかかることが要因の一つだと考えられるため、薬剤の効果を効率的に調べることが求められている。 したがって、本研究では脊髄小脳変性症を患ったマーモセットという小型の猿と正常なマーモセットの運動(手の動き)に対して、画像処理を用いた運動測定を行い、そこから疾病の有無を判別することを目的とした。この研究により治療効果の判定が定量的に行えるようになる。 *判別指標設定実験 [#k9fcfd64] **実験の設定 [#n45bf873] ここでは本研究で使用する動画の撮影方法について説明する。 まず初めにマーモセットが入った檻の前に白いプレートを設置し、その上に餌 であるワームを載せる。このとき餌がマーモセットから見えないように紙などで 遮る。これはマーモセットが餌に気づいたところから動作を撮影するためである。 カメラはプレートの真上に設置する。 以下は撮影例である。 まず初めにマーモセットが入った檻の前に白いプレートを設置し、その上に餌であるワームを載せる。このとき餌がマーモセットから見えないように紙などで遮る。これはマーモセットが餌に気づいたところから動作を撮影するためである。カメラはプレートの真上に設置する。以下は撮影例である。 #ref(camera.jpg) **判別指標設定実験 [#a62562d0] まず初めに疾病の有無における客観的な判別指標を設定するため、本実験では マーモセットの手(指先)の位置を目視により決定し、手動で計測を行った。また、 指先の運動の様子を比較するため、座標に加え速度と加速度、速度と加速度の 運動方向も計測した。以下は座標取得時のの画像例である。図の赤丸部分が取得箇所である。 まず初めに疾病の有無における客観的な判別指標を設定するため、本実験ではマーモセットの手(指先)の位置を目視により決定し、手動で計測を行った。また、指先の運動の様子を比較するため、座標に加え速度と加速度、速度と加速度の運動方向も計測した。以下は座標取得時のの画像例である。図の赤丸部分が取得箇所である。 #ref(samp.jpg) **実験結果 [#l254b375] 次に判別指標設定実験の結果を記載する。以下で使用したデータの測定は、前節の方法で撮影した動画像から行った。この動画像は1匹の正常なマーモセットから5系列(CIMG0226,CIMG0227,CIMG0228,CIMG0230,CIMG0231)、1匹の疾病を患ったマーモセットから5系列(CIMG0232,CIMG0235,CIMG0236,CIMG0237,CIMG0239)を得たものである。また系列CIMG0237 のマーモセットは餌の捕獲に失敗し、餌がプレートから落ちる際に座標の取得を終了した。疾病を持ったマーモセットの数値は赤字で記載した。 ***餌の捕獲動作全体での指先の動き [#y70c2d04] #ref(kekka1.png) 異常なものはX座標の幅が広いことが分かる。 ***餌の捕獲動作全体での指先の移動方向 [#y3322b37] ここで使用する移動方向は画面に向かって右を0度、左を-180度、上を-90度、下を90度とした。 #ref(kekka2.png) 正常なものは-90度と90度方向の移動が多いことがわかる。 また、異常なものは「なし」つまり、運動が停止した割合が多いこともわかる。 ***捕獲動作時間 [#z48a56b3] #ref(kekka3.png) 異常なものほど明らかに動作時間が長いことが分かる。 ***各運動の統計量を比較 [#td69510d] #ref(kekka4.png) #ref(kekka5.png) 統計量の数値にも違いが出ている。 **実験結果まとめ [#g23b71ce] 指先の運動の様子や動作時間、停止時間や統計量などを用いることで、疾病の有無を判別することは可能である。 *運動測定実験 [#k4a8da8d] マーモセットの手先は手領域の中でY 座標が最大となる画素であると いう仮定のもと、手領域の中でY 座標が最大となる画素を測定するための手法を 提案する。測定手順は次のように行う。 マーモセットの手先は手領域の中でY 座標が最大となる画素であるという仮定のもと、手領域の中でY 座標が最大となる画素を測定するための手法を提案する。測定手順は次のように行う。 #ref(sura1.png) #ref(sura2.png) **実験結果 [#gc09fd2a] 提案手法を用いてマーモセットの指先の座標を取得すると以下のような結果が得られた。この結果と手動による測定結果を比較すると、概ね正確な測定を行えたことが確認でた。 #ref(excelrei.jpg) **問題点 [#g841c91e] ここで提案手法の問題点として、正確な指先の位置が測定できない場合の画像例を挙げる。 ここで提案手法の問題点として、正確な指先の位置が測定できない場合の画像例を挙げる。以下の場合では誤検出となる。 #ref(sura3.png) *結論 [#yab0de06] 本研究では、マーモセットが餌を捕獲する際の動作を撮影した動画を用いて、疾病の有無の判別指標を設定することと、それらの判別指標を測定するための自動計測手法を提案した。判別指標設定実験では、マーモセットの指先の運動の様子や動作時間、停止時間や統計量を用いることで疾病を持ったものと正常なものとの判別は可能であることが確認できた。また、今回提案した運動測定手法は目視と手動による測定と比べ、簡略化という点で大いに成果を上げた。今回得られた疾病の有無における判別指標は、本研究によって初めて判明したものも多く、これらを運動測定の自動化と併用することは、薬剤開発の効率化を促す。本研究の成果が、脊髄小脳変性症の根治療法を確立する足掛りとなることを期待する。 判別指標設定実験では、マーモセットの指先の運動の様子や動作時間、停止時間や統計量を用いることで疾病を持ったものと正常なものとの判別は可能であることが確認できた。また、今回提案した運動測定手法は目視と手動による測定と比べ、簡略化という点で大いに成果を上げた。 今回行った判別指標設定実験は、餌の捕獲動作全体で比較をしているため、今後の課題として、餌を掴む前の動作、餌を掴む動作、餌を掴んだ後の動作といった各動作毎に解析を行うなどして、動作全体からは得られなかった差異やより明瞭な判別指標を設定することを考えている。また、今回提案した運動測定手法で、マーモセットの手を抽出する処理の中核をなしている背景差分は、時間経過や背景との兼ね合いなどによって運動測定に誤差を生じることが避けられない。よって、動画の撮影段階であらかじめマーモセットの手に塗料を塗り、色情報を用いた運動測定を行うなどの新たな手法を試みることで、より正確な運動測定を目指していきたいと考えている。 *参考文献 [#e92da293] [1] "OpenCV",http://opencv.org/ [2] 奈良先端科学技術大学院大学OpenCV プログラミングブック制作チーム,"OpenCVプログラミングブック", 株式会社毎日コミュニケーションズ,p238-249,2008 [3] 井村誠孝,"ラベリングクラス",http://oshiro.bpe.es.osaka-u.ac.jp/people/staff/imura/products/labeling [4] 須子統太, 鈴木誠, 浮田善文, 小林学, 後藤正幸,"確率統計学", オーム社,pp.6-7,2010