道路交通標識「止まれ」はドライバーに危険を知らせるための重要な標識の一つである。しかし、警察庁によると平成29年の一時停止違反は1327,461件と最高速度違反に次いで件数が多く、事故も17,990件も発生している。このような背景から違反件数や事故件数を減少させるためにドライバーの補助となる運転支援システムの発展が期待されている。 運転支援システムには様々な方法で対象の障害物を認識しているが、ここでは車に搭載されているドライブレコーダーで車の前方を撮影したものに画像処理を行うものとする。今回はその中で道路交通標識「止まれ」について着目し、検出アルゴリズムを提案した。
本研究では、ドライブレコーダーの連番画像の画像処理を用いて標識検出を行うことにした。また、ディープラーニングや機械学習などの手法では処理が複雑で計算の負荷が高く、学習に大量の画像データが必要で時間もかかることから、処理が単純な画像処理で標識の検出を行うことにした。 道路交通標識「止まれ」の赤色と形状に着目し、色抽出の手法に加えて形状特徴を利用する手法を組み合わせて「止まれ」の検出することを目的とした。
本研究における「止まれ」の標識検出では、はじめに画像に写る標識「止まれ」の赤色部分の色抽出をし、その抽出候補領域に対してエッジ検出、直線検出、輪郭抽出を用いることで「止まれ」の検出を行った。
提案手法の大まかな処理手順を以下に示す。
1. 入力画像の前処理 2. 前処理した画像の色抽出 3. 色抽出を行った画像に対してエッジ検出 4. エッジ検出を行った画像に対して直線検出 5. 直線検出を行った画像に対して輪郭抽出 6. 輪郭抽出を行った画像に対して面積が一定範囲であるときに標識として検出
上記の各処理の詳細な説明とアルゴリズムについて以下で述べる。
本研究では前処理としてメディアンフィルタを適応した。 メディアンフィルタとは、入力画像の細かいノイズを除去するときに用いられるものである。これは注目画素近傍の中間値を採用するというフィルタであり、3×3近傍のメディアンフィルタの適応例は以下の図2.1に示す。また、本研究では3×3近傍のメディアンフィルタを適応した。
色抽出とは、入力画像で特定の色を抽出するときに用いられる手法である。本研究では、HSV表色系を用いて赤色の色抽出を行った。 HSV表色系とは、色相(Hue)、彩度(Saturation)、明度(Value)の3つのパラメータから色を決定している。各パラメータを以下で述べ、HSVの色空間を以下の図2.2で示す。
色相(Hue): 赤、青、黄などの色 彩度(Saturation): 色の鮮やかさ 明度(Value): 色の明るさ
図2.2 HSV表色系
この3つのパラメータの閾値範囲と本研究で設定した赤色抽出の閾値範囲を以下の表に示す。また、設定した閾値範囲で行った赤色抽出例を以下の図2.3に示す。 ここで、入力画像全体に対して色抽出を行ってしまうと「止まれ」の色と似ている部分から誤検出となる恐れがある。そのため、本研究では色抽出を行う範囲を以下の図2.4のように入力画像の上1/4に設定することで検出精度を上げるようにした。
CENTER:H | CENTER:S | CENTER:V | |
LEFT:HSVの閾値範囲 | CENTER:0~180 | CENTER:0~255 | CENTER:0~255 |
LEFT:設定したHSVの閾値範囲 | CENTER:0~10,160~180 | CENTER:0~245 |