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T190D023 大林智靖

色抽出と形状特徴を利用した止まれの標識の検出

はじめに

研究背景

道路交通標識「止まれ」はドライバーに危険を知らせるための重要な標識の一つである。しかし、警察庁によると平成29年の一時停止違反は1327,461件と最高速度違反に次いで件数が多く、事故も17,990件も発生している。このような背景から違反件数や事故件数を減少させるためにドライバーの補助となる運転支援システムの発展が期待されている。 運転支援システムには様々な方法で対象の障害物を認識しているが、ここでは車に搭載されているドライブレコーダーで車の前方を撮影したものに画像処理を行うものとする。今回はその中で道路交通標識「止まれ」について着目し、検出アルゴリズムを提案した。

研究目的

本研究では、ドライブレコーダーの連番画像の画像処理を用いて標識検出を行うことにした。また、ディープラーニングや機械学習などの手法では処理が複雑で計算の負荷が高く、学習に大量の画像データが必要で時間もかかることから、処理が単純な画像処理で標識の検出を行うことにした。 道路交通標識「止まれ」の赤色と形状に着目し、色抽出の手法に加えて形状特徴を利用する手法を組み合わせて「止まれ」の検出することを目的とした。

標識検出手法

提案手法

本研究における「止まれ」の標識検出では、はじめに画像に写る標識「止まれ」の赤色部分の色抽出をし、その抽出候補領域に対してエッジ検出、直線検出、輪郭抽出を用いることで「止まれ」の検出を行った。

検出手順

提案手法の大まかな処理手順を以下に示す。

	1. 入力画像の前処理
	2. 前処理した画像の色抽出
	3. 色抽出を行った画像に対してエッジ検出
	4. エッジ検出を行った画像に対して直線検出
	5. 直線検出を行った画像に対して輪郭抽出
	6. 輪郭抽出を行った画像に対して面積が一定範囲であるときに標識として検出

上記の各処理の詳細な説明とアルゴリズムについて以下で述べる。

前処理

本研究では前処理としてメディアンフィルタを適応した。  メディアンフィルタとは、入力画像の細かいノイズを除去するときに用いられるものである。これは注目画素近傍の中間値を採用するというフィルタであり、3×3近傍のメディアンフィルタの適応例は以下の図2.1に示す。また、本研究では3×3近傍のメディアンフィルタを適応した。

色抽出

色抽出とは、入力画像で特定の色を抽出するときに用いられる手法である。本研究では、HSV表色系を用いて赤色の色抽出を行った。 HSV表色系とは、色相(Hue)、彩度(Saturation)、明度(Value)の3つのパラメータから色を決定している。各パラメータを以下で述べ、HSVの色空間を以下の図2.2で示す。

	色相(Hue): 赤、青、黄などの色
	彩度(Saturation): 色の鮮やかさ
	明度(Value): 色の明るさ

図2.2 HSV表色系

 この3つのパラメータの閾値範囲と本研究で設定した赤色抽出の閾値範囲を以下の表に示す。また、設定した閾値範囲で行った赤色抽出例を以下の図2.3に示す。  ここで、入力画像全体に対して色抽出を行ってしまうと「止まれ」の色と似ている部分から誤検出となる恐れがある。そのため、本研究では色抽出を行う範囲を以下の図2.4のように入力画像の上1/4に設定することで検出精度を上げるようにした。

HSV
HSVの閾値範囲0~1800~2550~255
設定したHSVの閾値範囲0~10,160~1800~245

エッジ検出

エッジ検出とは、画像内の物体の形状を把握しやすくする手法であり、画像の明暗がはっきりしている境界部分(エッジ)を検出する。本研究では、「止まれ」の赤色抽出の結果画像から赤色の物体の形状を検出するためにエッジ検出を用いた。エッジ検出の手法として、今回はCanny法を用いた。  Canny法とはJohn F.Cannyが1986年に発表したエッジ検出のためのアルゴリズムであり、弱いエッジも正確に検出できる手法である。Canny法は以下のようないくつかのアルゴリズムを組み合わせてエッジ検出を行っている。

   1. ガウシアンフィルタを用いて画像を平滑化、ノイズ除去
   2. Sobelフィルタを用いて画像の輝度勾配を取得
   3. ヒステリシスを用いた閾値処理

また、Canny法では2つの閾値を用いており、閾値の範囲を設定することでエッジ検出の調整を行う。以下の図2.5で設定した閾値範囲で行ったエッジ検出を示す。なお、色抽出で行った出力結果(図2.3)を入力画像とし、それぞれ画像を拡大した。

直線検出

エッジ検出で抽出したエッジから直線のみを検出するために直線検出を行った。本研究では、標準ハフ変換を用いた。  ハフ変換とは、画像空間からρ-θパラメータ空間への変換を行うことで直線や円を検出するときに用いられている手法である。距離ρと直線の角度θと表したとき、x-y座標での直線は以下の式(1)となる。  ・・・(1)  このときのρ,θの範囲と直線とみなされるための投票数である閾値を設定し、閾値以上のときに直線として検出している。また、閾値の設定を調整することで円形や止まれの文字などのエッジを削除している。以下の図2.6で設定した閾値範囲で行った直線検出を示す。なお、エッジ検出で行った出力結果(図2.5)を入力画像とし、それぞれ画像を拡大した。

輪郭抽出

直線検出で抽出した直線から図形を検出するために輪郭抽出を用いた。輪郭抽出は以下の手順で示す。

   1. 直線検出を行った画像に対して輪郭抽出
   2. 輪郭抽出で得た輪郭情報から輪郭を直線近似
   3. 直線近似した輪郭の内側の面積を求める
   4. 輪郭線の内側の面積が一定範囲であれば、輪郭に隣接する図形(止まれ)と判定

  1. で行った輪郭抽出で得られた輪郭線を緑で描写した出力画像を以下の図2.7で示す。 また、直線近似とは輪郭抽出で得られた輪郭線の周囲長を取得し、閾値を指定することで元の輪郭線に近い直線で近似するかどうかを求める手法である。この閾値が大きいほど、複雑な輪郭線で描かれた多図形を頂点数の少ない図形としてみなすことになる。例えば、星形状の図形に閾値大きく設定した直線近似を行うと、三角で近似する結果になる。 4. で行った図形の判定をした後、図形の輪郭を青色の線で描写した出力画像を以下の図2.8で示す。

実験方法

本実験では、ドライブレコーダーの連番画像から「止まれ」が写っている一定範囲の連番画像を用いた。ドライブレコーダー全体の連番画像には以下の図3.1に示すような4つの「止まれ」があり、それぞれ「止まれ」が検出できるかどうかを確認した。なお、1つの「止まれ」に連番画像として複数枚写っているが、このうち1つでも検出できたら検出とみなす。

実験結果

第2章で述べた提案手法による4つの「止まれ」の検出結果は以下の図4.1, 4.2, 4.3, 4.4となった。なお、出力結果に描写されている緑色の線は輪郭抽出で行ったときの線であり、青色の線は面積が一定範囲と判定された図形の輪郭線である。

図4.1, 4.2, 4.3, 4.4から「止まれ」を図形と判定して青色で囲んでいることが分かる。よって今回の実験ではすべての「止まれ」を検出できたと言える。また、「止まれ」の図形の周りをきれいに青色で囲んでいることから、図形の形を良い精度で「止まれ」を検出できたと言える。

考察

提案手法において誤検出となった画像についてと今後の課題について以下で述べる。

誤検出例

本研究で誤検出となった例として、図5.1のような入力画像の上部分に存在する赤色の図形が挙げられる。 誤検出となった原因として、赤色の図形で面積が一定範囲であるという条件のみで「止まれ」を検出されたことが考えられる。このような画像は、直線同士の角度を求めたのち、「止まれ」の正三角形の角度となるような条件を加えることで対処可能だと考えられる。

今後の課題

色抽出と形状特徴を利用した止まれの標識の検出手法について提案し、実験から「止まれ」を検出できることが確認できた。 今回の実験ではドライブレコーダーで撮影された画像で「止まれ」の検出を行った。そして、昼間の明るい時間帯で撮影された画像のみで検出を行ったため、夜の暗い時間帯を考慮する必要があり、実際の環境で「止まれ」を検出できるには精度は低いと考えられる。 また、本研究では「止まれ」の停止線までの距離を考慮せずに手法を提案した。だが、実用性を考えたとき「止まれ」までの停止距離を考慮した手法が望ましいため、本実験の手法を改良する必要があると考えられる。 本研究は4つの「止まれ」のみを検出できるかどうかの実験のみであり、実験で扱うデータ数は少ないため、新たなドライブレコーダーの画像では誤検出も出てしまうと考えられる。そのため、近傍直線の削除や面積の再調整、図形の角度を形状特徴条件として追加など提案手法の改良を行い、精度の向上と誤検出の減少に努めていく必要があると考えられる。

まとめ

本論文では道路交通標識「止まれ」の色と形状の特徴に着目して「止まれ」を検出することを目的とした。 提案手法として色抽出を行い、その後形状特徴としてエッジ検出、直線検出、輪郭抽出を用いた。提案手法で「止まれ」を検出できるか確認するために実験を行った。 実験では、実際にドライブレコーダーの連番画像から「止まれ」が写っている一定範囲の連番画像を用い、4つの「止まれ」の検出を行った。実験結果から提案手法によりすべての「止まれ」を検出できたことが確認できた。しかし、入力画像の上部分に存在する赤色の図形が誤検出されたことから、検出精度としては低いと考えられる。 今後の展望としては、近傍直線の削除や面積の再調整、図形の角度を形状特徴条件として追加など提案手法の改良を行い、停止線までの距離を考慮した手法を提案することなどが挙げられる。


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Last-modified: 2023-05-11 (木) 13:20:23