現在医学の世界で、細胞内での特定蛋白質の観察を行うための研究がなされている。それができることで、
といったことが可能になる。 そのために現在電子顕微鏡画像と共焦点レーザー顕微鏡画像を用いた手法が考案されている。この手法に用いられる2種類の画像は以下のようなものである。
この画像は図1のような画像である。この画像には細胞膜、細胞壁などといった細胞を構成する物質が写し出されている。この画像だけで特定の蛋白質のみを観察するのは難しい。
この画像は図2のような画像である。図2はタリンという蛋白質のみを写し出している。このようにこちらの画像では特定の蛋白質のみを観察することが可能である。
今回用いる画像では、共焦点レーザー顕微鏡画像の方が広範囲を写しているので、その画像内に電子顕微鏡画像の写す範囲が含まれている。なので電子顕微鏡画像の写す範囲を共焦点レーザー顕微鏡画像内から切り抜き図3のような画像を作成し、電子顕微鏡画像と重ね合わせることで図4のような画像が得られ、これから細胞内の特定蛋白質を観察する、というのが観察の手法である。
図3 図2から図1の範囲を切り抜いた画像 図4 重ね合わせた画像
しかし、この手法を行う上で共焦点レーザー顕微鏡画像の写す範囲から電子顕微鏡画像の写す範囲を探すのが非常に困難で時間がかかるという問題がある。 そこで本研究では、特定蛋白質をタリンと定め、この探索をコンピュータで行うための手法を考案した。
2種類の画像を使って位置を特定するわけなのだが、2種類の画像はそれぞれが別々の物を写し出しているのでこのままでは探索を行うことができない。そこで、両方の画像から細胞膜の形を抜き出し、それを用いて比較し探索を行っていく。
(人の手による作業)
電子顕微鏡画像の細胞膜を画像処理ソフトを用いてなぞり、そのなぞった線のみの画像を細胞膜の形を抽出した画像として扱う。
(以下はコンピュータで行う作業である)
電子顕微鏡画像の撮影時に写っている細胞が歪んでしまうこともあるようなので、多少のずれにも対応できるようなぞった線を膨張処理を用いて太くする。
例として、図5のような電子顕微鏡画像にこれらの処理を施すことを考える。すると、図6のような画像が得られる。
図5 もとの画像 図6 処理後の画像
原理の項でも述べたように共焦点レーザー顕微鏡画像の発色部分(タリンの存在部分)を抜き出すため、2値化を用いる。
図2を例にとると、処理を行ったものは図7のようになる。
以上の画像を用いて探索を行う。探索にはテンプレートマッチングという手法を用いる。
テンプレートマッチングとは、入力画像とテンプレート画像とを重ね合わせテンプレート画像を移動させながら比較・照合し両者が一致するか判定する探索方法である。[1]
今回の画像で言えば、
である。以降はこれを踏まえて入力画像、テンプレート画像という言葉で説明する。
入力画像とテンプレート画像の重なった部分がどの程度似ているのか判断する指標には以下の式を用いた。
bb: テンプレート画像の黒のうち入力画像の黒と重なった割合(%)
ww: テンプレート画像の白のうち入力画像の白と重なった割合(%)
wb: テンプレート画像の黒のうち入力画像の白と重なった割合(%)
bw: テンプレート画像の白のうち入力画像の黒と重なった割合(%)
これはテンプレート画像の画素の色を基準に、どのくらいの割合で同じ色同士が重なったか、違う色同士が重なったかを用いて指標としたものである。画像同士が重なっている箇所が似ていれば、bb,wwの値が大きくなるので指標全体も大きい値をとり、似ていなければ、wb,bwの値が大きくなるので、全体としては小さい値をとるようになっている。 (図は必要だろうか…)
また、テンプレート画像が入力画像上でどの角度で一致するかわからない、テンプレート画像を入力画像上でのサイズにするための縮尺率に誤差があるといった2点から、
といった処理を行いながらの探索となる。
画像は以下の画像を使用した。
図8 電子顕微鏡画像(倍率5倍) 図9 電子顕微鏡画像(倍率10倍) 図10 電子顕微鏡画像(倍率20倍)
図11 探索する範囲1 図12 探索する範囲2
出力される画像は探索に使用したテンプレート画像が、入力画像上の重なっている位置でどの程度類似しているかを色別に示している。類似していると判断されれば赤く、逆に類似していないと判断されれば青く表示される。現在のところ、該当箇所一箇所を特定するところまで及んでいないので、この画像から人の目で判断することになる。
以下の例は図5を図11上で探索した場合のものである。これはとてもよく探索された例で、一箇所だけ指標が高くなっており、その場所が正しい位置を示している。図13は一致した状態を示している。
図13 一致したときの状態 図14 出力画像1
以下に示した出力画像は該当箇所が四角で囲んであるが、これは位置を見つけた結果をわかりやすくするためにあとから編集したものであることに注意。
図15 原画像 図16 テンプレート画像 図17 共焦点レーザー顕微鏡画像該当箇所
図19 原画像 図20 テンプレート画像 図21 共焦点レーザー顕微鏡画像該当箇所
図23 原画像 図24 テンプレート画像 図25 共焦点レーザー顕微鏡画像該当箇所
比較的指標の高い箇所で適応する位置を見つけることができた。 しかし、高倍率のものは指標が全体的に高くなってしまっており、人の目で探索する範囲を少なくしきれていない。この原因としては、画像が高倍率になるほど写っている細胞の数が少なくなり、それにともない探索の際に必要な情報までもが少なくなってしまっている点が挙げられる。
さらなる探索範囲の限定、特に高倍率の画像の探索の精度の向上を目指し取り組みたい。さらにその次のステップとして探索範囲の限定だけでなく、的確な位置をコンピュータが検出できるよう改良し、実用的な手法にしていきたい。